ハイブリッドイメージの簡易な制作手法の研究

こんにちは。

東京大学大学院 学際情報学府 文化・人間情報学コース修士2年の藤原寛奈です。
この投稿では、自分の修士研究についてご報告します。

私は、ソーシャルディスタンスの意識化という動機から距離に応じて見え方が変化する錯視である「ハイブリッドイメージ」に着目しました。
ハイブリッドイメージとは、空間周波数の⾼いイメージと低いイメージを単⼀の画像に合成したもので、画像からの遠近によって2 つの画像が切り替わって見えるという特徴を持ちます。

修士研究では、数学的素養がなくとも、汎⽤的な画像処理ソフトを⽤いて
容易にハイブリッドイメージを作成できる⼿法の提案を目的に取り組みました。
そのために、プロトタイピングを通して開発した⼿法を
ワークショップ⽤に整理し、フローチャート化しました。

そして、アセットとして配布を想定しPC でハイブリッドイメージを制作する課題を設定したワークショップの実施を実施して、手法の検証を行いました。

ワークショップの結果、参加者は数学的素養がなくともハイブリッドイメージが制作でき、バリエーション豊かな成果物となったことから、目的は達成されたと考えます。

この研究の貢献は、汎⽤的な画像処理ソフトを⽤いて誰でも容易にハイブリッドイメージを作成できる⼿法を提案したことで、これは、ソーシャルディスタンスの距離感を体感できる画像など錯視を使った新たな表現が広がる⼀助になると考えます。

しかし、簡易ですが、画一的な表現になりやすいというのが、本研究の限界です。
今後の課題として、追加検討した手法の更なる検証や、実際にAdebeのアセットとして配布し、現場目線での改良をするなどが、考えられます。

最後に、私が制作した試作品を一部紹介します。
まず、ソーシャルディスタンスの距離感を体感できるスマートフォンの背景画像として制作した2作品です。
近くでは、「暑中お見舞い申し上げます」「わくらばに天の川波よるながら明くる空にはまかせずもがな」というメッセージが見え、右に90度傾けて離れると「2m」という文字が見えるようになっています。「2m」は、ソーシャルディスタンスとして、離れるべきとされる距離です。
主に、このスマートフォンの背景画像制作を通して、制作手法を検討しました。




次に、パソコンで鑑賞することを想定した作品を紹介します。
近くでは方言の意味、離れるとその意味を持つ方言が見えるようになっています。
こちらは様々な方言を対象に、ワークショップを行いました。
ワークショップを行うために、Photoshopのブラシ一本で製作できるようにするなど、スマートフォンの背景画像製作で提案した手法を、より簡易的に整えました。


その後、ワークショップのために整理した手法で製作した作品が、簡易ですが、画一的な表現になりやすかったため、表現の幅を広げるための追加検討を更に続けました。
こちらの2作品は、パンク、グラフィティをイメージしたものです。
近くでは「0ZERO PUNK」「Close To Me」、離れると「2m」が見えるように作成しました。

最後に、ユーザテストを行った際に、使用した作品を紹介します。こちらは、クイズ形式で行い、このブログの最後に正解を書きたいと思いますので、良ければ実際に体験してみてください。
(錯視を体感しやすいようにユーザテストで指定した条件を書きますが、厳密に条件を守らなくとも近づいたり離れたりすれば、錯視は起こります!余裕があれば条件を気にしてみてください!)

ユーザテスト風クイズ (正解はこのブログの最後)
画像を13インチのパソコンに全画面で表示してください。
この時、液晶は明るくし屋内で行ってください。また、画像は、できる限り正面から見て、目を細めたりせず、はっきりと目を開いた状態で見て下さい。

Q1,液晶から40~50cm(普段タイピングしている程度の距離)離れた時、読める文字列は何ですか?
Q2,液晶から1.5~2.0m程度離れた時、読める文字列は何ですか?

の作品も、実際に画面から近づいたり遠ざかったりして、画像の変化を楽しんでもらえれば嬉しいです。


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私は、大学院から2年間、渡邊研にお世話になりました。
他大学から来たため、右も左もわからない中、研究室の皆様には本当に良くして頂きました。
本当に皆様のおかげで、どうにかこの2年間を過ごし、修論まで辿り着くことができました。
特に、様々な分野の専門を持つ方々と一緒に学べたことは、とても貴重な経験でした。
また、制作系の学部出身で、論文にあまり触れてこなかった私にとって、修論を書くために、自分の制作の構造を紐解き、言語化するために試行錯誤したことは、とても大きな学びとなりました。この貴重な経験は、今後の人生にも生かしていきたいです。
大学院進学にあたり、学部時代の専攻的に、とても選択肢が少なかった中、制作系でも受験できる数少ない大学院として、学府を選びましたが、デザインで論文を書きたかった自分にとっては、学府の渡邊研に来れた事は自分が思っていた以上に良いもので、自分の選択は間違ってなかったと思えます。

コロナ禍で思い描いていた大学院生活とは異なっていましたが、とても充実した2年間でした。
就職で研究室を離れますが、今後とも研究室の皆さんには、ぜひ仲良くして頂きたいです。
今までありがとうございました。これからも、よろしくお願いします。

藤原
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正解:Q1「E2cB7」Q2「F7nPY」