デジタル資料を活用した防災教材・学習コンクール 【受賞作品の発表/シンポジウムの開催】

 


 こんにちは。人間文化研究機構/東京大学大学院情報学環・学際情報学府の大井将生です。

この投稿では、「デジタル資料を活用した防災教材・学習コンクール -未来へつなげる- 」の【受賞作品の発表/シンポジウムの開催】について報告させていただきます。


 様々な災害が繰り返し深刻な被害をもたらされる中、日々風化してしまう災害の記憶・記録をいかに継承し、日常の中で防災意識を喚起すべきかが問われています。東日本大震災後もトルコ・シリア地震や能登半島地震など、国内外で甚大な被害が生じています。

 一方、各地の災害記録を伝える資料はデジタルアーカイブ化されつつあり、防災教育への活用が期待されています。しかしながら、その存在は周知されておらず、利活用が進展していません。このような環境の中、各地のデジタル地域資料やデジタルコンテンツなどを組み合わせた、新しい防災学習のあり方への検討が、今求められています。

 本コンクールは、災害に関するデジタル資料やその教育活用事例の周知を図り、防災教育・学習におけるデジタルアーカイブ資料の活用を促進することを目的として開催しました。難しいテーマに加え、探究学習部門ではジャパンサーチを活用してJSON形式で提出する必要があるなど新しいチャレンジのコンクールでしたが、31件・約50名からご応募をいただきました。小学1年生から小中高の教員、図書館司書や研究者など多様な属性から応募があったことも本コンクール結果の特徴の一つです。

 審査は、地震・防災・社会心理・情報デザイン・デジタルアーカイブなど第一線の専門家によって行われました。そしてこのたび、審査委員会による厳正な審査を経て、下記の通り表彰作品が決定されました。受賞作では災害を「自分ごと」として捉え自身の「問い」とデジタルアーカイブ資料が接続された探究学習成果や、デジタル空間と実空間を架橋し、子どもたちの見方・考え方を地域の視点から支援する教材など、命を守る防災教育/学習の新たな視座が提示されており、示唆に富んだ知見を社会に還元することできた点は本コンクールの大きな成果であると言えます。

【教材部門】

<最優秀賞>

  • タイトル:「当事者意識を育むデジタルアーカイブ活用型防災学習」
  • 受賞者:宮田 諭志(成城学園初等学校) 
  • 受賞作品の全体・詳細のURL

<優秀賞>

  • タイトル:「一人一台端末を用いて、自然・社会条件を複合的に捉え地域性を見いだす汎用的資質・能力を。 ~新潟中越地震と兵庫県南部地震の比較・関連付けを通して~」
  • 受賞者:岩見 和行(神奈川県立厚木高等学校)
  • 受賞作品の全体・詳細のURL

<優秀賞>

  • タイトル:「リスボン地震(1755年)を起点に災害の「リスク」について考えよう」
  • 山岸 智弘(京都芸術大学他)
  • 受賞作品の全体・詳細のURL


【探究学習部門】

<最優秀賞>

  • タイトル:「EVACUATE‼」
  • 受賞者:田村 由希, 尾上 珠希, 桑崎 里咲(チーム名ばどっこ/東京都立大泉高等学校附属中学校)
  • 受賞作品の全体・詳細のURL


 これらの受賞作品は、2024年3月1日(金)に開催した授賞式シンポジウムにて表彰させていただきました。また、当イベントでは受賞者による作品のプレゼンテーションも行われました。

 発表では「デジタルアーカイブで学習をしてからフィールドワークを行うことで、普段の街で今まで気づかなかった防災意識や災害に関する新たな問いが生まれた」という効果や、自身の問いをどのような資料と紐付け、何を考えて問いを構造化していったのかというキュレーション学習の過程についても語られました。また、教材制作や探究学習において「メタデータが重要であると感じた」という意見や、資料を収集・保存・公開してくれる機関への活用者としての感謝の思いなども述べられたことが印象的でした。

 とりわけ、探究学習部門の最優秀賞を受賞した東京都立大泉高等学校附属中学校の生徒さんたちの探究成果は、内容の素晴らしさに加えて発表・プレゼンテーションも卓越したレベルであり、審査員はじめ授賞式シンポジウムに参加した大人たちを驚かせました。


 本コンクールを契機として、デジタル空間と実空間を架橋した防災学習が少しでも多くの学びの場面で進展し、問いと紐づいた資料や防災に関する知見が社会に還元され、未来に継承されることを願っています。私たちはこれからも「災いの記憶」とその経験を社会・次世代に活かすための研究と修養に努めます。今後ともご支援ご協力をいただけますよう何卒よろしくお願いいたします。


(関連情報)


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デジタル資料を活用した防災教材・学習コンクール -未来へつなげる- 

[主催]
 東京大学大学院情報学環渡邉英徳研究室/S×UKILAM(スキラム)連携

[後援]
内閣府 知的財産戦略推進事務局
デジタル庁
国立国会図書館
NPO法人 日本デジタルアーキビスト資格認定機構

[協力]
国立科学博物館
東京大学 大学院情報学環 講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座
東京大学 戦災・災害のデジタルアーカイブ基金
デジタルアーカイブ学会SIGジャパンサーチ研究会
一般社団法人 東京学芸大 Explaygroud推進機構
東京学芸大学 教育インキュベーションセンター
東京外国語大学 学際研究共創センター

[協賛]
TRC-ADEAC株式会社/大日本印刷株式会社
*ご協力・ご協賛など適宜受付中です。

[審査員]
目黒 公郎(東京大学 大学院 生産技術研究所/情報学環 教授)
渡邉 英徳(東京大学 大学院 情報学環 教授)
柳 与志夫(東京大学 大学院 情報学環 特任教授)
井上 透 (岐阜女子大学 教授/日本デジタルアーキビスト資格認定機構 常務理事)
関谷 直也(東京大学 大学院 情報学環総合防災情報研究センター 准教授)
室谷 智子(国立科学博物館 理工学研究部 理化学グループ 研究主幹)
大井 将生(人間文化研究機構 人間文化研究創発センター 特任准教授)

[企画・運営・問い合わせ先]
大井 将生(S×UKILAM連携 代表)
E-mail:oi-masao519[a]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

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