【修論】「平和のかけら」− 戦争写真を用いた平和ストーリの再構築のためのワークショップおよびツールキットの設計

こんにちは、修士2年生のハオです。

この投稿で、私の修士論文の内容、「平和のかけら」について紹介します。

【概要】
戦争は、平和な環境に暮らす人々にとって時間的・空間的に遠く離れた存在であり、日常生活との結びつきが希薄である。この隔たりは、平和に対する人々の期待と、戦争の影響を受けた人々の経験とをいかに結びつけるかという重要な課題を生じさせる。

本研究で提案する「平和のかけら」(Pieces of Peace)は、この課題に取り組むための創造的ツールキットであり、戦争写真から抽出した「ピース」(Pieces)を用いたストーリーテリングを通じて、参加者が平和のストーリーを再構築できるようにすることを目的としている。


【手法】
  • ツールキットの設計: 物語性を持つ要素を戦争写真から抽出し、それらを簡略化した視覚的形態へと抽象化するプロセスを指す。具体的には、「オブジェクト・ピース」「キャラクター・ピース」「環境線・点」などの要素が含まれる。
    ツールキットの使い方

  • ワークショップの設計: 参加者が戦争の導入から平和の物語の再構築と共有へと進むプロセスを設計する。戦争と平和の視覚化を対比させることで、批判的思考を促し、誰もが参加しやすい包括的な形式を通じて、多様な参加者を受け入れることを目的とする。
    2年間で、360名以上の異なる年齢層や国の人々が参加する

【検証】
 01.平和ストーリーテリングにおけるピースの活用
 (How the pieces were used in the works)
子ども、青少年、成人グループから制作した60作品を分析し、「オブジェクト・ピース」「キャラクター・ピース」「環境線・点」がどのように物語要素として変換されたかを検討する。形状、組み合わせ、色彩、テキストの活用を評価し、平和の物語の構築における表現の特徴を明らかにする。
  • 特定の形状や機能を持つピースは、形状/組み合わせの変換として使用されることが少ない。
荷物のように具体的な形を持っているピースは、意味を変換せずにそのまま使うことが多い
  • 抽象的なピースは、組み合わせて新しいオブジェクトを構築するのとして使われる可能性が高い。
抽象的なピースを組み合わせることで、花や家などのオブジェクトが構築される
  • 顔の表情や色/絵が追加されたものは、キャラクターのピースに比較的使用される。
    キャラクターの表情に笑顔を加え、カラフルな服を着せるのが見える

これにより、抽象的なピースと具体的なピースを組み合わせることでさまざまな変化が生じ、平和のストーリーを再構築する基盤になることが可能であることがわかる。

02.戦争写真と参加者作品の関連性
(Difference between participant's work and original image)
ワークシートの問い「戦争写真からあなたの作品へ、ストーリーテリングはどのように変化したと思いますか?」への回答を分析し、参加者が自身の平和の物語をどのように戦争の現実と結びつけているかを考察する。

03.ワークショップの記録とフィードバック
(Feedbacks from questionnaires)
ワークショップ中の観察記録および終了後のフィードバックを分析し、参加者の関与度や、ワークショップが内省や対話を促す効果について考察し、その有効性を検証する。


【結果】

検証の分析により、以下の結論が得られた。

  1. 「平和のかけら」を活用することで、多様な戦争写真を基にしたワークショップの実施が可能である。
  2. 「平和のかけら」を通じて、異なる年齢層や背景を持つ参加者がピースを用いて平和のストーリーを再構築することが可能である。
  3. 「平和のかけら」を活用することで、参加者が自身の平和に対する期待と戦争の現実を結びつけて考えることが可能となる。

以上の結果から、本研究の目的である平和の期待と戦争の現実を結びつけるためのツールキットおよびワークショップの設計が達成されたと考えられる。



謝辞

本研究の遂行にあたり、渡邉先生をはじめ、ワークショップ運営を支えてくださった研究室の皆様、共同開催にご協力いただいた学校やNGOなどの関係機関の方々に多大なるご支援をいただきました。この2年間、多くの素晴らしい方々からご支援を賜り、心より感謝申し上げます。

また、本デザインを通じて、日本各地および海外の参加者の皆様から多様で素晴らしい作品をお寄せいただきました。それぞれが唯一無二の表現であり、一つとして重なることなく、皆様の心の中にある「平和」と出会うことができたことに、深く感動するとともに、心より感謝申し上げます。


後輩へのメッセージ

修士課程の二年間はあっという間に過ぎる一方で、就職活動や研究発表などで外部からさまざまな評価を受けるため、大変な時期になるかもしれません。しかし、もう一方で社会人になる前に、最後に自分の時間をしっかりと把握できる自由な時間でもあります。

この忙しい中でも、余裕を持ちながらさまざまな刺激を受け、人や物との出会いを大切にすることで、自分自身をより深く知る機会になれると思います。

また、渡邉研のメンバーはみんな優しいので、もし辛くなったら周りの人に声をかけてください。仲間はいつもそばにいますよ〜