デジタルアーカイブ資料と児童生徒の 「問い」の接続・構造化に関する研究



こんにちは。

東京大学 大学院 学際情報学府 文化・人間情報学コースの大井将生です。
この投稿では、私が取り組ませていただいた修士研究について報告させていただきます。

私は、探究学習におけるデジタルアーカイブ資料と児童生徒の「問い」の接続・構造化に着目して研究を行いました。

デジタルアーカイブの主眼は「保存」から「活用」へとシフトしつつあり、アーカイブされた資料の教育活用への期待が高まっています。また、資料の活用に際してはフロー化した資料に新たな価値を付与して「知の循環」に還元することが求められています。教育学の文脈では、日本の児童生徒の情報収集・活用能力に課題があることが指摘されており、図書館や博物館等の資料を探究的に収集・活用する学習が必要とされています。

探究学習の先行研究においては、「問い」を構造化し、主体的に資料を収集する学習の重要性が示されてきました。しかしながら、「問い」と資料が教師から一方向的に与えられる事例が多いこと、さらに一次資料の活用事例が少ない点に課題がありました。またデジタルアーカイブの活用に関する研究の多くは、単一のアーカイブを対象としているため、扱う資料が限定的で、汎用性が高いとはいえませんでした。さらに、既存のアーカイブはWeb上に散在しており、アクセシビリティの課題を解決する必要があります。

これらの課題を解決することによって、児童生徒が「問い」に基づいて多様な資料を活用する探究学習が可能になると考えられます。そこで本研究では、デジタルアーカイブ資料と探究学習における児童生徒の「問い」を接続し、構造化することを目的として研究を進めました。

そのための手法として、まず児童生徒が自身の「問い」に即した資料収集を通して学びを深める「キュレーション授業」を開発しました。この際、多様な資料のメタデータを横断検索することが可能な「ジャパンサーチ」を用いて、学習資料の網羅性を高めるとともに、協働的な学びの中で「問い」と資料の接続・構造化を支援する「協働キュレーション機能」を用いることで、複数のユーザがメタデータを保持しながらキュレーションを行えるようにしました。


この提案手法を用いて、小学校・中学校において指導要領に則した連続的な実践を行いました。

    


    

実践の結果、以下のことが認められました。

・質問紙では、「問い」や資料をもとに学習を行い、自身の考えを構築することの重要性について述べる記述が、事前よりも事後に多く認められました。
・ルーブリックを用いたリフレクションでは、「情報リテラシー」と「主体性」の観点について、学習の後半に向けて自己評価が上昇する傾向がみられました。
・教員による学習成果物への評価では、学習初期に比べて、学習終盤への評価点が有意に高くなったことが明らかになりました。




これらのことから、自身の「問い」を基点とした主体的な学びが創発され、「問い」に即して収集した資料をもとに意見を構築する力が向上することが示唆されました。以上より、デジタルアーカイブ資料と探究学習における児童生徒の「問い」の接続・構造化が促進されたことが認められました。

本研究の成果は、探究学習におけるデジタルアーカイブ資料と児童生徒の「問い」を接続・構造化する学習モデルを示したことにあります。また、本研究で開発した手法は、児童生徒の「問い」と協働的な学びの成果という新たなコンテキストがメタデータとして付与された状態で構造化された資料をアーカイブすることを可能にするため、デジタルアーカイブ社会における「知の循環」に貢献しうると考えています。

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私の研究は、学際情報学府、そして渡邉研でしか成し得なかったと考えています。

デジタルアーカイブや記憶の継承、情報デザインやビジュアライゼーションに関心があるという点で緩やかな学術的つながりを持って集った渡邉研のメンバーは、専門やバックグラウンド・職業や年齢なども実に多様で、初めてミックスジュースを飲んだ時のような驚きと感動を伴うステキな化学反応がいつも生じています。
個性豊かでユニークなメンバーには、いつも研究に関する議論や雑談、コラボレーション研究や協働制作などで楽しく充実した時間と活力をもらっていました。

渡邉先生にはいつも鋭く深いご助言をいただくことで研究を推進するご支援をいただきました。また、実践に注力しすぎてしまう私にとっては、渡邉先生の実践・社会実装を重んじ、人々の心を大切にして資料や思いを未来に繋ぐ視座・スタンスが何よりもの救いであり、いつも感銘を受けていました。「自分がやりたいようにやるのがいいですよ」と何度も暖かく背中を押していただいたこと、深く感謝しています。

その他にも多くの方に支えていただき、これまで研究を行うことができました。
この場をお借りして深く感謝申し上げます。
いただいたご恩をお返しするにはまだまだ力量不足ですが、今後も研究と修養に邁進することで、巡り巡って少しでも社会に還元できるものができればと考えております。

まだまだやりたいこと、実現できていないことがたくさんあります。
博士課程進学後も、研究を続けて参ります。
以後の研究も暖かく見守っていただけますと幸甚に存じます。
引き続き何卒よろしくお願いいたします。

渡邉研に少しでも興味関心をお持ちの方は、ぜひ気軽に遊びにいらしてください。

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