関東大震災における企業の被災状況を伝えるデジタルコンテンツの制作


こんにちは!渡邉研博士後期課程 金甫榮(キムボヨン)です。

関東大震災から100年が経った2023年。渡邉研では、国立科学博物館の関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ~未来へつなげる科学技術」に、デジタルコンテンツを制作・出展しました。本投稿では、その中から企業をテーマとしたコンテンツをご紹介します。

コンテンツの制作目的と概要

関東地方に甚大な被害をもたらした関東大震災ですが、人々の生活はもちろん経済にも深刻な影響を及ぼしました。そこで、当時の企業の被災状況を振り返り、今後の防災について考えるきっかけとなるコンテンツを企画しました。

コンテンツでは、地震発生後の火災や避難する人々のようす、企業の被災状況、復興に取り組む姿を、ストーリーテリング手法を用いて制作しました。コンテンツの中で、関東大震災後に撮影された写真や,当時の体験を綴った手記,企業に残された資料などを、現在のデジタルマップと照らし合わせることで、遠い過去の出来事を身近に感じるよう、工夫しました。

「企業資料から読み解く関東大震災」

https://tokyo100years.mapping.jp/kigyo.html
こちらは、オンラインコンテンツで、インターネットで一般公開しています。制作には、GISプラットフォームである「ArcGIS Online」、また、マップにテキストや画象などを組み合わせてウェブサイトを作成できる「ArcGIS StoryMaps」を活用しました。



「企業からみる関東大震災」

こちらは、スクリーン投影型の VR 技術を活用したコンテンツです。「リキッド・ギャラクシー」という、体感型マルチーディスプレー・プラットフォームを使用しています。実際展示場で臨場感溢れる展示をご覧いただけます。

国立科学博物館における展示の風景(2023年9月1日撮影)

2つのコンテンツ、異なる魅力

展示の企画が始まったのは、4月頃。その後2ヶ月くらいの調査・研究期間を経て、本格的に制作が始まったのは、その後の2ヶ月くらいでした。それぞれのコンテンツ制作には特徴がありました。
まず共通点としては、写真資料や手記、事前調査としてかなりの時間を費やしました。関東大震災が経済に及ぼして影響に関する統計や会社史の記録をもとに、当時の場所と現在の場所を特定する作業、被災した建物の特定と写真の調査などです。
オンラインコンテンツの特徴は、こういった内容をじっくり見られることです。特に、現在37社の被災状況を、関連データベース(渋沢社史データベース、渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図)とともに紹介しています。一方で、大型ディスプレイのコンテンツの特徴は、空を飛ぶような感覚で、過去と未来を行き来しながら、関東大震災を経験したかのような体験ができることです。

もくもく会

コンテンツの本格的な制作が始まってから、渡邉研の制作メンバーは、毎週月曜日にもくもく会を実施しました。最初は色々試行錯誤をしていて、制作したものがボツになって、再度制作したり、出したアイデアがうまく表現できなったりしましたが、徐々に各自の特技を活かして役割分担ができるようになりました。物語を作ることが得意な人や、プログラミングができる人、地理情報に詳しい人、デザインが得意な人など、力を合わせて一つのコンテンツを制作することは、とても楽しい経験でした。

制作メンバーは、読売新聞から取材も受けました。緊張しながらも、記者さんの質問に、一生懸命に答える制作メンバーの姿も、ぜひ次の記事からご覧ください。

関東大震災の記録をデジタルアーカイブに ~ 東京大学大学院の院生たち
https://kyoiku.yomiuri.co.jp/campus/contents/post-780.php

次々と生まれるアイデア

力を合わせることで、新しいアイデアも次々と生まれました。関東大震災では、火災による被害が大きかったというこどで、火災がどうやって広がったかを可視化していますが、制作には何度も試行錯誤がありました。最終的には、国立科学博物館に所蔵されている14枚の地図を活用しました。1時間毎の火災延焼の様子が記録されているので、それを現在のマップ上で表現しています。

火災延焼の様子を可視化

また、帝国興信所の社員たちが書いた『震災手記』の内容を可視化したり、当時の実業界のリーダーとして渋沢栄一がどうやって非難したかを可視化したり、実物として残っている記録を、デジタルコンテンツとして表現するための、アイデアが沢山生まれました。

いよいよ展示開始!

8月31日には、9月1日からの企画展開催の前の内覧会が開催されました。オンラインコンテンツは、8月28日に公開しましたが、その後重さで動作が鈍いことを改善する作業が続きました。大型ディスプレイの展示は、内覧会の前日まで制作が続きました。

企画展の入り口(2023年9月1日撮影)

最後に

国立科学博物館の企画展に参加できたことは、私にとって非常に貴重な経験でした。国立科学博物館には、展示が始まって以来の1週間で、1万人以上の来館者が訪れたそうです。関東大震災から100年となる節目の年に、制作したコンテンツを沢山の方々に見ていただくことができて、本当に嬉しく思います。

展示が始まった以来も、制作メンバーはコンテンツの改善や微調整を続けています。渡邉先生は「コンテンツは生き物だから、育てて行ってください」とおっしゃいました。実際、コンテンツを日々育てていく過程で、私自身も成長し、新しいスキルや知識を取得する機会がたくさんありました。今後も、研究成果を展示やイベントなどを通じて、発表することに積極的に取り組んで行きたいと思います。


内覧会後に記念撮影(制作メンバーは他にもいます)

文責:2023年9月 渡邉研究室 博士後期課程 金甫榮