モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと読者の対話を促すコンテンツ制作の研究



 36歳,M2の與那覇里子です.
 社会人学生として学んだ2年間の集大成を一部ですが,ご紹介します.

 
 タイトルは,「モノクロ写真のカラー化技術を用いたメディアと読者の対話を促すコンテンツ制作の研究」です.


なぜ,この研究をすることになったのか.

 ニュースの流通網は,新聞の戸別配達が大きな役割を担っている一方で,ネットの登場は,ニュース配信の仕組みを大きく変えました.
 それぞれの持つメディアで情報を発信していたマスメディアは,Yahoo!やLINEに配信をはじめ,ユーザーがツイッターやフェイスブックなどのSNS,ブログなどにアップし,拡散されるようになりました.
 地方紙で記者として携わる筆者としては,地方の情報を全国に直接届けられるようになり,チャンスが増えたと思う一方で,地域特有の文脈や情報が含まれているとなかなか読んでもらえないというジレンマを感じていました.
 例えば,沖縄には,あの世の正月「グソーの正月」がありますが,見出しで取ったとしてもほとんど読まれません.
 また,記事への書き込みは,ディスコミュニケーションが多くあるのが現状です.

 そこで,幅広い読者に沖縄のニュースへの理解を促すことを研究の目的にしました.

 そのために,次の3つのアプローチを取ります.
1)沖縄のニュースに興味・関心を持ってもらうコンテンツを制作
2)地元特有の文脈への理解促進
3)メディアと読者の前向きな対話を生み出す


「ニューラルネットワークにディープネットワークを用いた
大域特徴と局所特徴の学習による白黒写真の自動色付け(2016,飯塚里志,シモセラ エドガー,石川博)」
 

どんな方法で目的を達成する?

 興味関心を引くために,飯塚らの開発したモノクロ写真をカラー化したAI技術を活用することにしました.


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 マスメディアは,読者に興味を持ってもらうため,イマーシブ型のリッチコンテンツを制作していますが,CG,凝ったUI,インフォグラフィックなどが盛り込まれ,記者がすぐに作れるものではありません.
 飯塚らの技術であれば,1クリックで色をつけることができます.
 エンジニアでない記者も扱うことが可能です.

 ただし,課題もあります.
 AIは230万枚の写真から,着色について学んでいますが,正しい色ではないため,人の手による補正が必要です.
 そのため,私の記者という職能を生かし,取材によって色を補う手法をとります.
 

コンテンツ制作

1)戦前の沖縄のモノクロ写真を活用

 写真については,朝日新聞が1935年に沖縄で撮影したモノクロ写真を使います.写真には,生き生きとした表情の沖縄の人々が映し出されており,沖縄の文化を視覚的に理解できるからです.
 277枚ある写真の中から,私が選んだ写真の一つは,市井の人々の暮らしぶりが分かる那覇市場の写真です.



 
 それらの写真を元に,コンテンツ制作に向けて取材をすることにしました.
 手法としては,当時を生きていた人たちを探し出し,同窓会などを通じてアポを取りました.
 その方々にじっくりと写真を見てもらって,写り込んでいるものが何かを一つ一つ語ってもらったり,撮影場所について聞いたり,実際に色の違いについて聞きました.


 色付けをしたことで,くっきりと見えてきたモノが,おばあさんたちの手元に写っていた入れ墨です.ハジチと言われるこの入れ墨は,戦前,既婚女性が彫っていたもので,地域によっても異なります.

 
写真:朝日新聞社


 この写真については,ほかにも,取材,やフィールドワークを重ね,コンテンツとしてまとめ,発信しました.

 

 また,277枚ある写真の中から,もう1枚,傘をさすセーラー服姿の女子高生についての写真を色付けし,取材,コンテンツを制作しました.




2)戦後沖縄の白黒写真をカラー化した写真展

 筆者が編集に携わる沖縄タイムスに眠る,戦後沖縄のモノクロ写真を活用した写真展を通してコンテンツを制作することにしました.
 モノクロ写真とカラー写真で色が比較でき,会話が生まれるように二つ並べて展示し,当時の出来事や背景を思い出すための新聞記事も展示しました.




 また,個人で所有しているモノクロ写真を展示会場に持ってきてもらい,カラー化する取り組みもしました.
 1日100人以上から依頼があり,写真展5日間で約700枚をカラー化しました.
 両親や祖父母,親戚が写った家族の写真が多くありました.

 また,許可をもらった写真は,SNSでアップしました.
 すると,SNSで“偶発的な”対話が生まれ,コンテンツとして制作することができました.


まとめとこれから

 今回のコンテンツ制作において,幅広い読者に沖縄のニュースに興味・関心を持ってもらうことを目指しました.貢献の一つとして,読者と前向きな対話ができたことが挙げられると思います.

 また,AIの課題として挙げた「正確な」着色でなかったことが,人々の対話を促し,新たな知見をもたらしました.
 

 しかし,今後の課題として,今回,私が着色したAI技術だけでなく,記者が汎用性高く活用できる技術について,整理する必要があると思います.もっと,興味関心を持ってもらえる“武器”として,どういうものがあるのか,知る必要があります.
 また,今回,SNSで対話を促しましたが,フェイクニュースも多い中,何を持って信用できるのかは大きな課題です.
 また,ストーリーを持って制作するコンテンツも大切ですが,共感を得ながら紆余曲折,偶発的に生まれるコンテンツは理解を促進する可能性があります.
 そのようなコンテンツの制作の可能性をこれから模索してみたいと考えています.


 今回の研究にあたり,着色のAI技術を開発し,活用させていただいた飯塚先生,石川先生に感謝いたします.
 また,写真の活用を許可していただいた朝日新聞社,沖縄タイムス社,インタビューに応じていただいたみなさま,ありがとうございました.
 社会人学生として送り出してくれ,写真展を開催させてくれた会社をはじめ,いつも応援し,支えてくださっているデジタル部の仲間に感謝いたします.

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後輩みなさんへ

 私は,とてもいい仲間に巡り会えました.
 干支が同じ,同学年のゼミのみんな!
 wtnv研究室のみんな!
 インダスで一緒に机を並べて勉強したみんな!
 12年ぶりの学生生活に戸惑う私は,たくさん助けられました.
 突然,社会人学生が来たというのに,ランチやグループワークに誘ってくれてありがとうございました.

 私は,いい仲間に出会えたことで,2年間,励まされ,支えられ,学び直しを楽しませてもらいました.

 そして,きっと,就職してから,学び直しをしたいと思った時,私が役立つ時が来るのかもしれません.