【修論】出征兵士の足どりデジタルアーカイブ ─地域における戦争の記憶の掘り起こしと継承のアクションリサーチ─



こんにちは。修士2年の三上尚美
です。
この投稿では、私の修士論文の内容をご紹介します。
ゼミブログの恒例企画です。ぜひ先輩方の研究成果もチェックしてみてください♪



出征兵士の足どりデジタルアーカイブ
 ─地域における戦争の記憶の掘り起こしと継承のアクションリサーチ─

◯背景と目的

 戦後77年を迎え、アジア・太平洋戦争の記憶の継承は喫緊の課題であり、戦争体験者の生の声に頼らない新たな継承方法が模索されています。一方、象徴的な出来事のみを重視した一面的な継承が進むことは、当時の実相の記録を失うことにも繋がります。


 多面的な記憶の継承のためには、”あまり語られてこなかった”戦争の記憶の掘り起こしによる、多様な戦争体験の記録が求められます。さらに、"地元の"戦争の記憶を学ぶことは、戦争を身近に感じ、自分ごととして捉えるきっかけになり得ることが、過去の実践事例からも窺えます。しかし、大きな戦災がなかったなどの理由から「自分たちの町には戦争のエピソードがない」と捉えて地元の戦争記憶の継承に取り組んでこなかった地域において、自発的に「地域の戦争の記憶」の継承と掘り起こしに取り組むことはさらに困難です。


 こうした現状を踏まえ、本研究は「地域の戦争の記憶」の掘り起こしと継承の方法の提案を目的とします。



◯手法

 「出征兵士の足どり」を主題とするストーリーテリング・デジタルアーカイブ制作のアクションリサーチを実践し、結果を観察しながら手法を改良します。



・なぜ出征兵士?

 全国どの地域でも共通して取り組めるテーマ(=地域の戦争の記憶を掘り起こすきっかけ)といえるため。


・なぜデジタルアーカイブ?

 以下のことが期待されます。

 ・継承活動の成果を一般公開し、アップデートしていくという環境が、継承に重要な継続性に繋がること。

 ・継承活動の成果がその後も活用される = ウェブ上に地元の戦争の学習の場が育つこと。



 さらに、上記の指針に対応する手法の関連研究と事例を分析した結果、実践の要件を具体的に定めます。


・誰もが継承に携われるように、プログラミングスキル不要で制作できるモデルにする。

・移動軌跡があるという出征兵士の記憶の特徴を踏まえて、足どりを可視化する。

・ユーザーが 「戦争を自分ごととして捉える」ために 「いまの自分たちと同じように、この地域に暮らしていた一般市民が徴兵されて兵士になった」ことに焦点をあて、個人のストーリーを表現する。

・生の証言に頼らない将来の継承手法の提案として、残された資料と出征者本人以外へのインタビューを用いて新たな記憶を掘り起こし、それをアーカイブに反映する。



 そして、実践のフィールドは、地域学習と戦争の継承の土台があり、且つ「継承が進んでいる記憶(空襲)」と「あまり語られてこなかった戦争の記憶」を区別できる新潟県長岡市を選びます。自治体や地元の資料館の協力を得ながら進めます。

 


◯実践内容

 ・インタビューによる記憶の掘り起こし

  ・インタビュー内容を反映して デジタルアーカイブのコンテンツ制作


 主にこの2つを繰り返しながら、デザインなどの改良を重ね、2022年12月にウェブで一般公開しました。

 *作品はこちらからご覧いただけます


◯結果

 実践の結果、

・出征者本人と、その家族を対象に、新たな出征兵士に関する証言が収集されました。

・加えて、戦災住宅消失地図の空白が埋められるなど、想定外の成果も得られました。

・これらの成果と、筆者が行なった掘り起こしの活動記録がアーカイブされました。


 以上から、本研究の手法が「地域の戦争の記憶」の掘り起こしと継承に活かせることが確認されました。


 

 修士論文としてはこのように結びましたが、本研究の提案手法を広めるため、長岡市以外でワークショップを行ないました。こうした活動とコンテンツの更新は、今後も続けていきたいと思っています。

 *今後の活動・更新情報は、Twitterで報告予定です。



◯謝辞

 本研究の遂行にあたり、ご協力頂きました全ての皆様に心より感謝申し上げます。


 まず、渡邉先生そして渡邉研のみなさまへ、改めましてご指導とご支援を頂きありがとうございました。個人研究以外にもニューヨーク展示など様々な機会を頂けて、充実した2年間となりました。


 フィールドワークは、長岡市立中央図書館文書資料室室長・田中洋史さま、長岡市イノベーション推進課(当時)・加藤俊輔さま、新潟県立歴史博物館専門研究員・田邊幹さま、長岡戦災資料館のみなさまをはじめ、多くの方々のご尽力とサポートのお陰様で取り組むことができました。大変お世話になりました。


 そして、インタビュイーとそのご家族のみなさまのご協力なしには、このデジタルアーカイブ制作は成り立ちませんでした。未来へ残すために、時に悲しい出来事を思い出しながらも語っ てくださったこと。戦歴や手記、写真、そして遺品をずっとご家族が大切に守ってく ださったこと。なにより、みなさまが今日まで元気でいらしてくださったからこそ、 このストーリーテリングが多くの方々へ届いています。心より感謝申し上げます。