「戦災VR」日テレイマジナリウムアワード 2023にてXR部門大賞受賞のご報告


こんにちは。

東京大学大学院情報学環・学際情報学府の小松尚平です。

この度、戦災VR日テレイマジナリウムアワード 2023にてXR部門大賞を受賞いたしましたことを報告させていただきます。

戦災VR」は、戦災写真のデジタルアーカイブと新興テクノロジーを活用して、新たな体験を提供し〈戦災の記憶〉を未来に繋げる試みになります。

戦災VR」の体験では、3Dスキャナー技術を用いて体験者のアバターを再現し、戦災写真内で歩行することが可能です。これにより、過去の写真の没入感を提供し、新たな世代に戦争の実感を伝えるために研究開発がはじまりました。体験者はタイムマシンのように過去の写真内をアバターとして歩行し、臨場感を強く感じることで、体験者は単なる鑑賞以上の興味を持ち、当時の状況や環境を直接感じ取り、歴史を深く理解しようと試みることを期待して、ユーザー体験がデザインされています。

また、複数の写真アーカイブがある場合は、写真から生成した3Dデータをデジタルツインにマッピングし、VRと連携させることで、実際の被災状況の体感もできます。

本プロジェクトは、渡邉英徳研究室のメンバーや、被災地の地元クリエイターが収録した3Dデータや写真、株式会社PocketRDの提供技術など、デジタルアーカイブや新興テクノロジーに支えられています。

終戦から78年がたち、「戦後生まれ」が殆どを占めるようになりました。「戦災VR」が、戦争を考えるきっかけとなり、平和への価値を高める力になることを期待して、更なる研究開発に努めます。

受賞作は,東京都現代美術館「MOTアニュアル extra」展(2023年12月9日~2024年3月3日)にて展示されます。



審査委員3名の講評は以下になります。


八谷和彦 氏(東京藝術大学 美術学部先端芸術表現科 准教授)
ここ2年ほど、多くの人の関心は世界規模の疫病から紛争や戦争に移行したのだと思う。現在の各地の戦争は過去から続く複雑な経緯が背景にあり、理解するのも一筋縄ではいかないが、紛争の地で多くの民間人が犠牲になっているのは事実であり、また私達もいつそのような立場になるか…と多くの人の不安の根っこもそこにあるようにも思う。戦災VRは紛争のあった場所に「リアルな外観を持った鑑賞者」を立たせる装置であり、それによって当事者性が一層強くなる効果をもっている。これはリアルアバターの非常に有効な使い方であり、また「報道を体験する装置」でもある。審査員一同、この時代に必要な作品として、本作品をXR部門1位とした。またこのような試みが一筋縄ではいかない問題に取り組むためのきっかけとなることも期待したい。

稲見昌彦 氏(東京大学 先端科学技術研究センター)
かつて寺田寅彦は「天災は忘れたころにやってくる」と世代を超えた記憶の忘却という現象を示しつつ看破した。であるなら人災や戦災も忘れたころにやってくるのかもしれない。この作品は知識を体験化するVRの特性を生かしつつ、社会の忘却に技術で抗う試みである。

南澤孝太 氏(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授)
テロ、震災、感染症、そして戦争。これまで現実に起こると想像すらしていなかった悲劇が次々と起こっていく現代を生きているわたしたちは、いま改めて、混沌とした現代を生き延び、よりより未来を創るすべを歴史から学ぶ必要があるのだろう。知識としては知っていてもどこか遠い出来事のように感じてしまう戦争の歴史、それを現代の技術によって今の自分と繋ぐ本作品は、XRがもたらしうる新たな社会性を示している。






授賞式の様子


「戦災VR」は以下のテレビ番組でも紹介されています。