渡邉研究室博士課程3年の金甫榮です。
このたび、私が研究代表者を務めた共同研究の成果として制作した「みんなで古写真【渋沢栄一伝記資料】」(以下、「みんなで古写真」)が、「2024デジタルアーカイブ産業賞」(デジタルアーカイブ推進コンソーシアム)の奨励賞を受賞しました。
「みんなで古写真」は、私が在籍する公益財団法人渋沢栄一記念財団と人文情報学の研究者が共同で立ち上げた研究プロジェクトの一環として制作された「渋沢栄一フォトグラフ」のメインコンテンツです。このプロジェクトは、令和3年(2021年)度に国立歴史民俗博物館の総合資料学奨励研究に採択されたものです。
本サイトは、市民が参加できるデジタルアーカイブとして、「他の地域資料アーカイブへの展開が期待される先進事例」であり、「学びながら地域資料アーカイブへの積極的な参加が見込まれる」(https://dapcon.jp/awards/2024/より)点が評価され、今回の受賞に至りました。
みんなで古写真【渋沢栄一伝記資料】
「みんなで古写真」では、『渋沢栄一伝記資料』別巻第10に掲載されている約700枚の写真資料を公開しています。現在、一万円札の顔として注目を集めている渋沢栄一ですが、このサイトでは彼の一生を追いながら、日本の近代化に関わる出来事や人物についても学ぶことができます。
市民参加型デジタルアーカイブ
本研究では、機械学習を活用して写真画像の切り出し位置を認識するモデルを構築し、大量の画像を効率的に処理しました。その上で、市民が情報を付け加えられるプラットフォームを開発しました。このプラットフォームでは、写真を検索するだけでなく、関連する人物や場所、翻刻(文字起こし)、現在の写真、文献情報などを市民が追加することで、写真に関する情報を蓄積し、共有することが可能になります。
また、このプラットフォームでは、参加者が自分のアクティビティを他の参加者と共有することができる仕組みが整っています。さらに、参加者同士が共同で作業を進めたり、意見を交換したりすることで、互いに刺激を与え合う環境を構築しています。このようなデザインにより、単なる個人作業にとどまらず、コミュニティ全体で知識や経験を深め合う協調学習の場を実現しています。
「みんなで古写真」の開発は、国立歴史民俗博物館の橋本雄太准教授が手がけられました。橋本先生は、歴史資料の翻刻プロジェクトとして広く知られる「みんなで翻刻」を開発したことで有名です。「みんなで翻刻」に興味のある方は、ぜひあわせてご覧ください。
本研究は、膨大な量の写真資料が保存されていながら、それに関連する情報が特定できず、活用が進まないという課題を解決したいという思いからスタートしました。現在はまだ試験的な段階ではありますが、すでに100人以上の方々が参加しており、これまで不明だった情報が少しずつ明らかになり始めています。これにより、写真資料が実際に利用される可能性も広がってきています。さらに、こうした取り組みが評価されたことを大変嬉しく思っています。
写真資料や市民参加型デジタルアーカイブにご興味がある方は、ぜひこのプロジェクトに参加してみてください!皆さまのご協力が、新たな発見と活用の一歩となります。
関連研究成果
橋本 雄太, 金 甫榮, 中村 覚, 小風 尚樹, 井上 さやか, 茂原 暢, 永崎 研宣. 写真資料のクラウドアノテーションシステムの開発: 『渋沢栄一伝記資料」別巻第 10 を事例に. 人文科学とコンピュータシンポジウム論文集. 2021. 132-137. http://id.nii.ac.jp/1001/00215672/Yuta Hashimoto, Boyoung Kim, Satoru Nakamura, Naoki Kokaze, Sayaka Inoue, Toru Shigehara, Kiyonori Nagasaki. Crowdsourcing as Collaborative Learning: A Participatory Annotation Project for the Photographic Materials of Shibusawa Eiichi. Digital Humanities 2022 Conference Abstracts. 2022. 479-483.