【特別編】広島で始まったカラー化の取り組み 週報171123

 東京では紅葉が見ごろを迎えています。
 銀杏並木の葉は、黄緑色から黄色に向かう最中で、グラデーションが秋を形作っています。風がそよぐと落ち葉はフワッと舞い、歩けばカサカサした音が聞こえてきます。
 沖縄では体験できない秋を堪能しています。
 M1の與那覇です。


 そんな季節に広島に研究調査に行く機会を得ました。


映画「この世界の片隅で」の片渕須直監督(右)と濱井徳三さん


 目的は、広島女学院の高校生たちが始めた戦前・戦中の写真をカラー化する取り組みを調べるためです。11月上旬に首都大でのワークショップに参加した一人、Nさんが渡邉先生の色付け技術を学び、スタートさせていました。


平和記念公園で実家のあった場所を訪れる濱井さん(右)と広島女学院の学生

 カラー化をしている白黒写真は、濱井徳三さん(83)が保管していた戦前、戦後の家族の写真です。濱井さんのご家族は、原爆によって亡くなられ、濱井さんは「原爆孤児」となりましたが、写真には家族のピクニックの風景や濱井さんの自宅だった理髪店の様子などが残っています。


 実は、調査に行く前、Nさんとのメールのやり取りで、こんな一文がありました。


 「濱井さんの大切な形見の皿時計を見せて頂いたのですが、その皿時計が、店内を写した写真に写っていることが判明しました!!!」


 新聞記者の私としては、記者魂が疼きます。 
 色付けをするプロセスの中で、写真に写り込んでいる物が分かったこと、そしてその物が未だに残っているのは奇跡に近いことです。


 また、私の出身地である沖縄の戦争では、時計に関する住民の証言をほとんど読んだことがありませんでした。
 直感的に、広島では時計は身近なものだったのかもしれないという仮説が立ち、広島の時計産業について調べ始めました。
 
 しかし、東京で資料を探してもたどり着きません。そこで、戦前から続いていると思われる時計店に一軒一軒電話。話をきいているうちに、少しずつ広島の時計産業の歴史の輪郭が浮かび上がってきました。


下村時計店本店



 1泊2日の短い出張の合間に唯一話を伺えたのが下村時計店です。原爆が投下された時、本店は爆心地から約620メートルにあり、建物が一部残りました。現在もその跡地に店を営んでおり、当時の市民にとって時計がどんな存在だったのか、記憶の限り伺えました。
 


 さて、肝心の実物の時計。平和記念資料館の協力を得て、約2万点の収蔵品が眠っている倉庫へ。濱井さんが寄贈した時計を見せてもらえることになりました。
 
平和記念資料館の倉庫に保管されている濱井さん寄贈の時計


 時計を囲んで濱井さんに話を聞かせてもらううち、ところどころ私にとって違和感がありました。
 その一つに、いくつか事前に読んだ濱井さんの証言の綴られ方と比べると、話の流れに滑らかさがなかったことです。
 どうも、表面的な語り方ではなく、もっとゴツゴツしたような物を感じました。
 
 気になって別室で再びじっくり話を聞かせてもらいました。
 だんだんとわかってきたのは、形見の時計は、濱井さんの人生の捉え方を節目節目で変えたきっかけになっていたことです。時計を軸にして話を聞き進めたからこそ分かった気がします。
 色付けをする機会がなければ、なかなか浮かび上がらなかったことかもしれません。
 原爆投下後も残った時計としてではなく、一人の市民の人生を見守り続けた一方、翻弄したものでもありました。
 
濱井さんの人生を変えた皿時計




 広島の原爆を語るとき、投下された8月6日午前8時15分の「点」で捉えてしまいがちです。
 ヒロシマアーカイブも、その時間をピンポイントで表現しています。


 ですが、色付けの取り組みをしているNさんと話していると、モノクロの写真をカラー化をすることで、8時15分に続く何年も前の広島がイメージできるようになっていました。家族が映る写真、一人一人の何気ない生活がそこにあったことを作業を通して実感しているようです。
 
 このあたりももっとヒアリングをしているので、調査にまとめようと思います。 


広島国際映画祭の祝賀会
 

 現地ではちょうど開催中だった広島国際映画祭にも出席。
 ロングランで上映されている映画「この世界の片隅で」の片渕須直監督、Nさん、濱井さんと「色」について意見を交わすことができました。

 モノクロの世界をアニメ化する時、監督はどうやって色をつけたのか。
 ニューラルネットワークの色付けをどうみているのか。
 高校生の取り組みをどう考えているのか。

 直撃インタビューも調査結果にまとめます。
 もったいぶろうと思うので、公開はまた今度。


 濃密で、怒涛の広島出張でした。



〜今週の注目ゼミ生〜
 こちらは「核廃絶!広島中高生による署名キャンペーン実行委員会」のメンバーにワークショップをしているM1秦那実さん。
 広島と女子高生に食い込んでいる秦さん、頼もしいです。
 

 
 次回の週報は、B4の福山くんです。よろしくお願いします。