階層を有する企業間取引ネットワークの時系列ジオビジュアライゼーション

はじめまして,博士課程3年の有本昂平です.
このブログで記事を書くのは初めてですので,簡単に自己紹介をさせていただきます.

私は,2014年に社会人博士の学生として渡邉研に入りました.渡邉研で取り組もうとしていた研究テーマはビッグデータのビジュアライゼーションであり,修士課程までの半導体の研究とは全く異なるものでした.

社会人学生としての私は,普段は都内にあるオフィスでの仕事のため,大学への通学は基本的に週一回のみでした.週一回の通学日には,学部生や修士の学生に混じり,ゼミに参加し,研究の進捗報告や議論を重ねてきました.

このような環境の中で,私が取り組んだ研究テーマは,「階層を有する企業間取引ネットワークの時系列ジオビジュアライゼーション」です.

実社会により近い企業の取引構造を把握するため,帝国データバンクが蓄積してきた信用調査報告書の情報を企業ビッグデータとしてデータベース化しました.そして全量の企業ビッグデータを用いて,企業同士の取引関係を示した企業間取引ネットワークを生成しました.

この企業間取引ネットワークは,複雑ネットワークの一種であり,キャッシュフローを向きとした有向ネットワークであるといった特徴を持っています.また時間の経過に伴い,企業の取引関係は刻一刻と変化します.そのため企業間取引ネットワークをそのままビジュアライズしたのでは,データに潜む情報の把握が困難です.そこで企業ビッグデータの把握を促進させることを目的に,この研究では有向ネットワークの時系列変化を把握することが可能なビジュアライゼーションシステムを開発しました.


これが全量の企業間取引ネットワークを搭載し,ユーザがインタラクティブに操作することのできるビッグデータビジュアライゼーションシステムです.企業の取引関係をデジタルアース上に曲線で表現することで,取引による地域間のつながりの強弱を把握することが可能となりました.

この取り組みは,2015年のグッドデザイン金賞を受賞し,世の中からも高い評価をいただくことのできたプロジェクトとなりました.

そして,企業間取引ネットワークに潜む階層構造や時系列変化による特徴の把握に対応した,ビジュアライゼーション手法を提案しました.


このビジュアライゼーション手法は,有向ネットワークにおける中心企業からの次数に応じて描画するエッジの階層を変化させた手法です.また時系列での取引数の変化に応じて描画するエッジの色を変化させ,取引数の増減の把握を可能にしました.

私が開発したビジュアライゼーションシステムは,自治体や企業の担当者がビッグデータからエビデンスを見つけ出す補助をするツールとして活用することで,エビデンスに基づく政策立案の実行が期待されます.

今後の展望としては,実際にシステムのユーザへの活用を検討するフェーズへ向かい,ウェブアプリケーションとしてインタラクティブに操作可能なアプリケーションシステムの構築を目指していく予定です.


週一回しか研究室のメンバーと顔を合わせることはできませんでしたが,ひとりの学生として接してくれ,研究について一緒に議論ができたことは非常に貴重な経験となりました.ありがとうございます!博士課程として在籍した4年間が短い期間だったと感じることができたことは,みなさんが創ってくれたムードのおかでだったと強く感じています.

私から研究室の後輩へ伝えれることを少しだけ書き留めさせていただきます.

みんな時期は異なりますが,いずれかのタイミングで社会に出ていくことになると思います.社会に出ると,より多岐に広がる分野を横断して考え,これまではあまり接することの少なかったビジネス領域についても意識していかないといけません.

異なる複数の領域を横断した思考をするためには,インプットが重要になってきます.今まであまり触れてこなかったような分野についても,積極的に興味を持ち,情報を吸収することを意識して欲しいと思います.

偉そうに語りましたが,僕自身も研究者としてこれから一歩ずつ進んでいくところです.何かわからないことや,困ったことがあれば気軽に相談してください.ちょっとだけ長い社会人経験を生かしてアドバイスができることもあるかもしれません.

最後になりましたが,本当にありがとうございました!