【修論】ナラティブのローカライズによる「修理する権利」運動の受容促進: 日本人向け対話型意識啓発プログラムの開発を通じて

修士2年の中村健太郎です。

本投稿では、自分の修士論文の内容をご紹介します。


研究の概要

本研究は、広くは社会運動論とよばれる、学際的な社会運動研究に位置付けられます。インターネットの登場以降、社会運動の実践はインターネットを介したブログやウェブアプリケーションなどの新しいメディアを通じて、これまでにない形で推進されるようになりました。修士論文の中で用いた言葉で言えば、運動に関するテキストをインターネットで検索可能な形で公開することによる、「自動化された抗議行動」が可能になったことが大きな転換点であると自分は考えています。

そこで本研究では、欧米を中心に広がりを見せる「修理する権利(right to repair)」と呼ばれる社会運動に関する言説の受容を促進するための、独自に開発したウェブアプリケーションを中心とするアドボケーション・ツールキットを開発、提案することを目的に据え、開発したツールキットを用いたオンライン会議ツールによる実験と、録音した音声データを対象とする質的データ分析を行いました。


開発したツールキット


当初は情報技術を用いることで社会運動をより効果的に広めることができることを証明できるのではないか、という素朴なモチベーションで始めた本研究ですが、しかし、研究を通じて「何らかの社会的対立に人々を”駆り立てる”可能性のある社会運動言説を、効果的に人々に受容させる確率を上げる技術」には、その実、重大な問題があるのではないかという懸念を感じるようになりました。そして実際に実験を繰り返す中でも、決して人々が無批判に社会運動の言説を受け入れるわけではないという当たり前の事実にも気づくことになりました。

かくして、論文執筆を通して当初の問題設定は徐々に方向性を変えます。結果として、実験結果からは、「批判的受容」を含めた「受容促進」が可能であるという結論を得ることができました。


修士研究からの学びと今後の展望

修士研究を通じて、漠然と広がっていた個人的な研究関心を、修士論文というひとつの成果物にまとめあげることができたことで、自分自身の散らかりがちな好奇心をひとつにパッケージし、今後の研究活動の土台へと落とし込めたと感じています。

研究の過程では、まさにその「散らかりがちな好奇心」によって、指導いただいた先生方や同輩には心配をかけてしまったと反省しています。今振り返れば、それは一種の現実逃避でした。しかしながら、今回の論文執筆のあと、そうした興味のとっちらかりは(比較的)おさまったと感じています。ひとえに指導いただいた皆様のおかげです。

自分は今後、情報学環の博士課程に進学します。そこでは、今回の修士論文で得た知見をさらに立体的なものとし、より一般的に応用可能な研究成果を達成することを目標とするつもりです。

博士研究計画(2023年3月時点)


研究者としての自律/自立を目指し、今後とも精進していきます。自分の研究についてご興味ある方がおられましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。今後とも、インターネット以降の社会をよりよく理解するための視座を広げていく営みに参画していきたいと思います。


中村健太郎