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【修論】感情と香りの結びつきを意識化する 嗅覚インタラクションのデザイン

こんにちは、M2の余楚韵です。普段は研究室ではキキと呼ばれています。

この投稿では、修士課程で取り組んできた研究内容をご紹介します。


感情と香りの結びつきを意識化する嗅覚インタラクションのデザイン


目的

 本研究の目的は、香りを用いたインタラクションにより、日常の中で潜在していた感情が意識化される体験を生み出すことです。


背景

 技術の進展による社会環境の急速な変化の中で、人々は「感情」に注意を向ける機会が少なくなりつつあります。例えば、「自己の内面に存在する感情」および「ニュース報道に込められた感情」は、日常の中で十分に意識されないまま流されがちです。

 しかし、これらの感情を捉えることは、個人が自身や社会的出来事をよりよく理解し、経験に意味を与える上で重要な役割を果たすといえます。

 一方で、嗅覚は感情と密接に結びつく感覚であり、適切な手がかりとして用いることで、潜在的な感情に注意を向けるきっかけとなり得ると考えられます。


手法・結果

 本研究では、前述の二種類の見過ごされやすい感情を対象とした作品を制作し、香りの介入が感情への気づきにどのような影響がもたらされるのかを明らかにします。

 具体的な手法と結果分析は以下に示します。

研究一:感情を食品の香りで具象化する作品『心の味わい』

 ユーザーが自身の感情状態を整理し、自身の解釈に基づいて「食品の香り」と対応づける体験を設計します。選択された香りを実際に提示することで、ユーザーの感情を具象化する作品を構築します。







 展示を通じて収集したデータ(ログデータおよびWebアンケート)を分析したところ、以下の結果が得られました。

  • 感情の振り返りから香りの提示に至る一連のプロセスにおける、デザインの妥当性が示されました。
  • これにより、ユーザーが自己の感情に注意を向け、より深く捉えるための有効なきっかけを提供できました。

研究二:ニュース報道に込められた感情を香りで伝える視聴体験

 長崎国際テレビの三本のニュース映像を対象とし、アンケート調査により抽出された「視聴者が共通して感じる感情」に基づいて香りを調合します。予備実験で香りが喚起するイメージと、前述の感情要素との一致度を検証した上で、映像と共に香りを提示する視聴体験を構築します。




 展示を通じて収集したデータ(紙アンケート)を分析したところ、以下の結果が得られました。

  • 制作した香りの提示により、ユーザーのニュース報道への感情的関与や没入感が向上し、内容をより豊かに感じ取るとともに、記憶への定着も促されました。
  • 本体験をきっかけとして、香りと感情との結びつきを意識し、自ら関連づけを構築しようとする能動的な姿勢が確認されました。
 以上の結果から、本研究が提案する手法は、自己の内面及び社会的な情報に潜在していた感情の意識化を促す上で有効であり、本研究の目的は達成されたと考えられます。
 総じて、本研究は二つの実践を通じて、感情の表現・伝達における嗅覚の応用可能性を拡張しました。また、主観性が強い嗅覚体験に対し、香りと感情を対応づける際の考え方とデザインアプローチを提示しました。嗅覚体験への関心が高まりつつある中、本研究は体験デザインにおける新たな方向性を示す一助となったといえます。

おわりに

 在学2年間、本当に多くの方々にさまざまな形で支えていただきました。そのおかげで、自分でも驚くほど成長できたと感じています。

 中でも、渡邉研究室の皆さんには日頃から温かく接していただき、渡邉先生には終始丁寧なご指導と励ましを賜りました。そうした環境の中で過ごす時間は、私にとって自然と肩の力を抜いていられる、とても大切なものでした。

 渡邉研究室に出会えたことを、心から嬉しく思っています。本当にありがとうございました。これからも、ここで得た経験を大切にしながら前向きに頑張っていきます!