こんにちは.
東京大学大学院 学際情報学府 文化・人間情報学コース修士2年の中原貴文です。
この投稿では、自分の修士研究についてご報告します。
修士研究では,「顔」にまつわるプライバシー観のありようについて再考するきっかけを提供すること,を目的として取り組みました.
そのために,情報環境における「顔」の保護手段として「肖像写真を風景写真に擬態させる」体験を提供するメディアアート作品「擬態するポートレート」を制作しました.
作品を実現するために以下のシステムを開発しました.まず,色相・彩度・明度の平均と標準偏差を用いて,肖像(入力)画像と色彩が類似した風景画像をDBから検索し,目的画像とします.次に,ColorTransfer法により目的画像に色調を転写します.さらに全ての画素を輝度・色相でクラスタリングし,マッピングした結果に基づいて画素を並べ替え,目的画像を擬似的に再現します.
このシステムを用いて,肖像・風景写真の変換を体験する展示作品と,変換前後の写真を見比べるために,それぞれの写真をプリントアウトし比較できるポスターとアルバムを制作しました.この作品を通して,自分自身の情報をコンピュータシステムに委ねる危険性・プライバシーの主体的な管理の重要さを,人々に提示することを目指しました.加えて,学内・学外にてそれぞれ展示を行い,行動観察と体験者の「気付き」を確認するためのアンケートを実施しました.
(東京大学制作展Extra2019 展示)
(展示の様子)
行動観察の結果,両方の展示で,変換される過程を見て驚いたり,変換前後の写真を見比べるようすが観察され,多くの人に「顔」を取り巻く社会状況に抵抗するという概念を伝えることができ,そのことが肯定的に受け取られているようでした.また,学外の展示におけるアンケートでは,作品を通じて個人の肖像写真のやり取りについて明るい期待を抱いていること・プライバシーと付き合う姿勢に前向きな考えが生まれてることがわかりました.このことから,体験者の中で「顔」にまつわるプライバシーについての意識の変容が生まれていることが読み取れました.
これらのことから,制作したシステムを用いた作品の展示と肖像・風景写真の変換体験により,「顔」にまつわるプライバシーについて再考するきっかけを提供できたと考えます.
この研究では,情報社会における重要な要素である「顔」に関する情報の保護技術を開発したこと,さらに,その技術をメディアアートとして表現することにより,今後の肖像写真の取り扱いについて問題提起したことを達成できたと考えています.
自分は,この三月で卒業をし,就職しますが,今後も,活動を続けて作品をブラッシュアップしていけたらと思います.
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自分は,渡邊研で首都大学東京の学部生時代から含めて合計で4年間在籍しました.
はじめにゼミに参加した時,先輩方と渡邊先生の議論のレベルの高さに愕然としました.
スキルや研究の方法など,ダメダメだった自分は,なんとか食らいついていくことで精一杯だった四年間だったと思います.
いつの間にか,修士2年となり,卒業してしまいますが,この研究室で学んだことで,大きく成長させていただけたと思います.
自分は就職し,大学を離れてしまいますが,今後も同期をはじめ、先輩・後輩たちとも引き続き交流できたらと思っています.
4年間大変お世話になりました。ありがとうございました!