『デジタルアーカイブの理論と実践 -デジタルアーキビスト入門-』刊行のお知らせ

 こんにちは。東京大学大学院情報学環/学際情報学府の大井将生です。

この投稿では、私が共編・分担執筆を担当させていただき、樹村房より出版されました書籍『デジタルアーカイブの理論と実践 -デジタルアーキビスト入門-』について紹介させていただきます。


概要は以下の通りです。

<内容>
特定非営利活動法人日本デジタルアーキビスト資格認定機構が認定する準デジタルアーキビスト資格養成講座のテキスト。
デジタルアーカイブを理解するとともに,デジタルアーカイブを支える人材であるデジタルアーキビストが必要とする知識・技能を習得できる基本書。

<目次>
1章 デジタルアーカイブとは
2章 多様なデジタルアーカイブ
3章 運営・管理
4章 法と倫理
5章 デジタル化
6章 公開・利活用

 本書では、デジタルアーカイブに関する理論・事例・運営・管理・法制度・構築・公開、そして利活用までを網羅的に、かつ初学者の方にも分かりやすい構成・表現でまとめている点に特徴があります。デジタルアーキビスト資格養成講座や大学の教科書としても採用されていますので、資格取得を目指す方や大学でデジタルアーカイブを学ぶ方はもちろん、企業やNPO、博物館・図書館・文書館や自治体の関係者や学校の先生など、「初めてデジタルアーカイブやDX関係の業務に携わる/勉強を始めたいけれど前提知識や経験がなくて困っている」という方にも、<デジタルアーキビスト>としての基礎知識・技能を修得していただくことができます。

 上記のような内容を、楽しく・分かりやすく学んでいただくために、実例も豊富に掲載しています。例えば渡邉英徳先生のご論考では、「Re:Earth」や「出征兵士の足どりデジタルアーカイブ」といった若者主体のボトムアップなデジタルアーカイブの構築と活用のあり方が示されています。田山健二氏による各地域のユニークなデジタルアーカイブの紹介や、和田一美氏による企業の視点での取り組みなど、デジタルアーカイブの多様な視点・裾野の広さも例示されています。

 誌面上のアレンジとしては、参考文献や参照アーカイブなどの引用箇所にQRコードを併せて記載するなど、読み手フレンドリーな工夫も行なっています。ぜひスマホやタブレット片手にデジタル・Web空間と紙媒体の書籍空間を行き来しながら、楽しくデジタルアーカイブの世界を探索していただけると嬉しいです。

 DA・DX関連のお仕事や研究に関わり始めた方がいらっしゃいましたら、お気軽に本書を手に取っていただければと存じます。


 私が執筆したセクションでは、ジャパンサーチやEuropeana・DPLAなど国内外の統合的なデジタルアーカイブと、デジタルアーカイブの教育活用について概説させていただいております。学校教育での主体的・対話的で深い学びを実現するためのデジタルアーカイブの活用手法や連携の重要性、今後の課題についてまとめていますので、とりわけデジタルアーカイブの活用・アウトリーチや教育分野に関わりのある方にはぜひご高覧いただけますと幸いです。また、他の章と合わせてご参照いただくことで、教育分野の専門性に関わらず、全てのデジタルアーキビストとなる方にとって自分ごととして持ち帰っていただくことができる主題になるのではないかと考えております。

 上記ジャパンサーチやEuropeana・DPLAなどの統合的なデジタルアーカイブと、教育活用というアジェンダには、共通点があります。それは、「繋ぐ」こと、そして「協創」の重要性です。統合的アーカイブでは異なる地域・機関の資料が、組織的な連携と横断検索のアルゴリズムによって繋がれています。教育活用の文脈では、子どもたちや先生の「問い」とデジタルアーカイブ資料を繋ぐことの重要性が示唆されており、今後はカリキュラムとデジタルコンテンツの機械可読性の高い接続も求められています。そのような繋がりを基盤として、多様なアクターが共に新たな知を創り出すことで、資料や情報の価値を高め、未来に継承することが大切だと考えています。

 今後もデジタルアーカイブを媒介として、データとデータを繋ぎ、人とデータを繋ぎ、人と人を繋ぐことのあり方を検討すべく研究と修養に努めます。皆様とデジタルアーカイブの理論と実践について議論・協創させていただくことを楽しみにお待ちしております。今後とも何卒よろしくお願いいたします。